ある友達に言わすと、私にはある種の電波が出てるらしい。
また別の友達に言わすと、妖怪を200匹ぐらい連れてるような人らしい。
まぁ、友達の与太話は判断しようがないが、確かに言えることは、おかしな人に気に入られることが多い。しかも、ただのおかしい人ではない。
頭のおかしな人だ。
私がまだ13歳だった中2の頃。
近くの学校に、歩いて制服で通っていた。
その頃の私の頭の中には、考えなければいけないことが、ぎっしり詰み込まれていた。
人生最大の悩みは、天然パーマの髪の毛のこと。
最大のお楽しみは梅田の街を散策すること。
最高のお気に入りは犀星や太宰を読むこと。
そして最大の謎は、
『なぜ、あいつはいつも同じ場所で立ってるのか?』
だった。
『あいつ』は登下校の途中の四つ角に、いつも雑種の白い犬を連れて立っていた。
お世辞にも、整ってるとは言えない顔立ちで、神経質そうな眼鏡をかけていた。
あいつは何をするわけでもなく、通学する私の姿を、じっと見ているのだ。
毎日、毎日。
行きも帰りも。
私は『あいつが連れている犬が飼われてる家』、つまり、あいつの家も偶然みつけた。
同じ町内だった。
日当たりの悪そうな場所で犬だけが、何か言いたげに、こっちを見ていた。
小難しい本が読めても、13歳だった子供の私には、あいつの意図など、まったく分からなかった。
今は、子供への犯罪やストーカーが溢れてるが、当時は事件などテレビの中でしか起きない出来事であった。
私は怪訝に思うことはあっても、いつしか慣れ、あいつの事など視野にも入らないようになってきていた。
そして月日は流れ、私は中学を卒業した。
まわりの友達のように泣くこともなく卒業式を終え、1度も君が代を歌わずに、義務教育は終わった。
そして、あいつは卒業式の日も、いつもと変わりなく、四つ角にいた。
高校に進学した私は、電車通学に変わった。
入学式の日に、早めに登校しようと駅に向かったら、駅のそばで、あいつが立っていた。
まるで昔からそこに居るみたいな顔をして、あの犬も連れている。
さすがに私も、あやしいと思ったが、人通りの多い場所なので気にすることはない、と自分に言い聞かせた。
ただ、道行く女性が時々、あの犬を撫でてる間、あいつがニヤニヤと笑うのが、たまらなく気持ち悪かった。
なぜか自分が、あいつに撫でられてるように感じたのだ。
あいつは結局、私が高校を卒業するまで、朝・夕と同じ場所に立ち続けた。
中学と合わせると5年になる。
その間、ただ1度だけ、あいつが私に声をかけたことがあった。
私は無視して歩いていたが、キンキンと甲高い声で、叫んでいた。
きっと勇気を振り絞ったのだろう。震えてうわずっていた。
「ぼく、名前は○○○○です。当年とって26です」
高校生の私には、まったく関係ない大人の世代だった。
私が高校を卒業すると同時に、あいつはいなくなっていた。
気づいたら、あいつの家も取り壊されていた。
あれから20年がたった。
あいつが私にとって初めてのストーカーだ。
すでに記憶は風化していて、思い出すことさえなかったのに。
ついさっきまで・・・・・・。
今日、出先で白い雑種を見かけた。
犬の頭を撫でようと、そばに近づくと男が立っていた。
まぎれもなく、あいつだった。
※リンクさきの識雅さんのサイトに、この話をモチーフにした小説が載ってます。とても上手な文章で引き込まれます。ぜひ、「白い犬連れあの子に逢いに」も、お読みになってください。
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- 2007/04/06(金) 09:44:25|
- 小さな怖い話
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